中古住宅購入時のホームインスペクションと重要事項説明
中古住宅を購入するときに利用されることの多いホームインスペクション(住宅診断)ですが、このインスペクションに関係する法律改正や施行日、そして改正されたその内容について紹介します。
中古住宅の購入や自宅の売却を検討している人に関わる改正ですから、見ておきましょう。また、この改正による不動産業界や中古住宅の売買に影響することについても紹介しています。
中古住宅の売買時のホームインスペクションに関する宅建業法の改正
中古住宅の売買時のホームインスペクションに関して、どのようなことが法律改正されたのでしょうか。その内容や施行日などについて解説します。
2016年5月に宅建業法の改正が可決
改正されたのは、宅地建物取引業法という法律で、不動産業界では「宅建業法」と呼んでいるものです。2016年5月にこの宅建業法の内容の一部がいくつか改正することが可決され、同年6月3日に公布されています。
その改正内容に、中古住宅売買時のホームインスペクションに関することが含まれていたのです。
2018年4月に施行と閣議決定
実際に改正された内容が施行されるスケジュールが未定であったのですが、「宅地建物取引業法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が閣議決定され、2016年12月26日にそのスケジュールが公布されました。
これによれば、中古住宅売買時のホームインスペクションに関することは、2018年4月1日に施行ということです。
ホームインスペクションが売買時の重要事項説明の対象に
次に、ホームインスペクションに関してどのような内容の改正が行われたのか確認しておきましょう。
不動産会社が買主や売主にホームインスペクションを告知・説明する義務を負う
国土交通省のHPでも確認できますが、以下の改正内容とされています。
既存の建物の取引における情報提供の充実を図るため、宅地建物取引業者に対し、以下の事項を義務付ける。
- 媒介契約の締結時に建物状況調査(いわゆるインスペクション)を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面の交付
- 買主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明
- 売買等の契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面の交付
このなかに出ている宅地建物取引業者とは、不動産会社のことです。中古住宅の売買では不動産会社が物件を仲介することが非常に多いですが、その不動産会社のことを指しています。上記をもう少しわかりやすく言えば以下の通りです。
媒介契約の締結時に建物状況調査(いわゆるインスペクション)を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面の交付
中古住宅の売買では不動産会社が仲介(媒介ともいう)することが多いわけですが、不動産会社は売主や買主と売買契約を結ばなければなりません。売主とは「あなたのご自宅を売りますよ」という媒介契約を、買主とは「あなたのマイホームを探し紹介しますよ」という媒介契約です。
この媒介契約を結ぶときに、不動産会社が、ホームインスペクションを行う業者を売主または買主に対して斡旋するかどうかを書面で説明しなければならないということです。
最近、買主がホームインスペクションを希望するときに買主自身がインスペクション業者を探さずに不動産会社に探してほしい、紹介してほしいと依頼する人も増えています(本当は自分自身で探して依頼した方が第三者性を保ってもらいやすいので、自分で探した方がよい)。
この法律改正では、買主や売主から斡旋・紹介を希望されることがなくても、不動産会社の方から斡旋するかどうかを積極的に説明しなければならないということです。つまり、インスペクションに興味を持っていない人にもインスペクションの存在やその概要を説明することになりますね。
買主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明
媒介契約や売買契約を結ぶ前の時点で、既にホームインスペクションを実施済みの中古住宅もあります。たとえば、売主が事前にインスペクションしておいた方が売りやすいと考えて実施している場合や不動産会社が販促活動の一貫で実施している場合などが考えられます。
そのように既にインスペクションを実施済みであるときには、その結果の概要を買主へ不動産会社から結果について説明しなければならず、しかも重要事項としての説明が義務付けられています。不動産売買における重要事項とは、売買契約の前に行う重要事項説明の対象ということですから、国もインスペクションの重要性を認めているということですね。
売買等の契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面の交付
この点はまだ詳細が不明瞭な部分もあります。インスペクション等によって明らかになっている建物の状況(不具合、劣化事象など)について、売主と買主の両者が書面で確認することでしょう。今の中古住宅の売買においても、現況について売主が買主に告知する書面がありますが、ホームインスペクションを利用した場合にはより詳細な情報を確認しあうことができますね。
ホームインスペクションが中古住宅の売買促進に有効
中古住宅の流通量(売買件数)の増加は、日本が抱える問題(経済活性化・大量の住宅ストック・ライフステージに合わせた住み替え等)への対策の1つとして有効だと考えられており、その流通量を増やすためには専門家によるホームインスペクションの利用促進が役立つとみられています。
安心して中古住宅を購入できる環境づくりは、確かに購入者によってプラス材料です。
中古住宅の売買・業界への影響
ホームインスペクションに関する宅建業法の改正が、実際の中古住宅の売買や不動産業界に与える影響として、どのようなことが考えられるでしょうか。施行が2018年4月ということでまだ少し先の話ですが、影響を予想してみましょう。
不動産会社は2タイプに完全分離する
ホームインスペクション(住宅診断)を利用しようとする買主に対して、非協力的な態度をとる不動産会社は今の時点では多いです。その理由は、売買契約前に実施することで、その結果次第では買主が買うのを止めてしまう可能性があるからです。これを不動産会社は自分たちにとってのリスクと考えることがよくあります。
一方で、買主が人生をかけた大きな買い物をするわけですから、その気持ちを理解して、また売買後の売主と買主間のトラブル抑制などのメリットも考えて、積極的な不動産会社もあります。インスペクションを前向きに取り入れていることを営業上のPR材料としている会社もあります。
改正されたものが施行された後は、いずれにしても不動産会社は消費者へインスペクションについて説明等をしなければならないわけですから、今までとは対応を変えていく業者が増えることが予想されます。時代の変化に対応できるかできないかが問われる機会です。
インスペクション利用に積極派の不動産会社が増えていく
いつまでも、不動産会社にとってのリスクだと考える業者は存在し続けるでしょう。インスペクションの説明を他の重要事項説明の項目と同様に早口で読み上げるだけに留めて、消費者の関心度をあげないように努める業者はあることでしょう。
しかし、今以上に一般化し、実質、国が利用促進するインスペクションに抵抗する不動産会社は徐々に淘汰されていくことが予想されます。一度は、2タイプに分かれるものの、長い目で見れば積極派(というか当然派)が残る業界になっているのではないでしょうか。
買主側が受ける影響
今時点では、インスペクションの利用に関して不動産会社が積極的でないこともあるため、売主が良く思わないなどとの理由をつけて利用を拒否しようとするケースがあり、スムーズに買主が利用できないことがあります。しかし、この改正と施行によって、不動産会社が今よりもスムーズにインスペクションの段取りをしてくれる可能性が高まるでしょう。
また、今ではほとんどのインスペクションについて買主が費用負担していますが、今後は売主が費用負担したり、折半したりといったケースも増えていくと思われます。
ただ、不動産会社がインスペクション業者を積極的に斡旋することにより、不動産会社とインスペクション業者の癒着が生じて、買主に正しい情報(インスペクション結果)が伝わらないリスクが高まります。買主は、できるだけ自分自身でインスペクション業者を見つけて依頼するように心掛けたほうがよいです。
施行されるまで1年以上の期間がありますが、その間にも不動産会社は徐々にホームインスペクションに対する考えや対応を明確にしていき、今から変化していくことが予想されます。