建売住宅の引き渡し前にホームインスペクションが必要な理由とメリット
建売住宅を購入して、引き渡し前のタイミングで第三者の専門家によるホームインスペクションを利用しようとしたところ、不動産会社から「ホームインスペクションは必要ない」「診断しても意味がない」「普通は利用しない」などと言われたと相談を受けることがあります。
しかし、現実に建て売りを買った人が引渡し前にホームインスペクションを依頼することは非常に多く、買主によっては売買契約を締結する前に利用することもあります。
それでも、なぜ不動産会社が必要ないなどと否定的なことを言うのか、ときには拒否することまであるのか、気になりますよね。また、多くの人が利用するからには、必要性が高いだろうと思えますが、その理由も気になるところですね。
今回のコラムでは、不動産会社が建売住宅に対するインスペクションを必要ないと嫌がる理由や、本当は必要だと言える理由や依頼するメリットを紹介します。
この記事は、建売住宅をこれから購入しようとする人や、既に契約済みの人にも役立つものになっているので、ぜひ引き渡しを受ける前に読んでおきましょう。
建売住宅とは?
建売住宅とは、事業者が土地を仕入れて、建物を企画・設計・施工をして、希望者へ販売する住宅のことで、分譲住宅とも言われています。
土地の仕入れは、1区画のみを購入して、そこに建物を建てて販売するケースもあれば、大きな土地を購入して、開発(複数の区画に分割するなど)して、複数等を建築・販売するケースもあります。
新築住宅を取得するとき、建売住宅と対比されるのが注文住宅です。これは、土地を購入するか、もともと所有したり、賃借したりして、その上に間取りや仕様などをオーダーして建築するものです。
契約形態は、建売住宅では売買契約、注文住宅では工事請負契約を締結することになります。
また、販売されている土地に、土地の売主が指定する建築業者で建物を建築することが条件になっている販売形態もあり、建築条件付き土地と呼ばれています。この場合、その上に建築する建物は工事請負契約であり、発注者(=施主)が間取りや仕様についてオーダーできるのですが、その選択肢を制限されていることも多いです。
建売住宅は、注文住宅に比べて総額が安いことが多いですが、注文住宅のような建物の間取りプラン・仕様などについての自由度がなく、画一的なものが多い傾向にあります。
建売住宅向けホームインスペクションとは?
建売住宅に対して利用できるホームインスペクション(住宅診断)が全国各地で利用されるようになりました。普通の人が何度も建売住宅を買う機会はないことから、その購入時にホームインスペクションを依頼した経験もないのではないでしょうか。そこで、建売住宅向けのホームインスペクションの概要を紹介します。
依頼する人
建売住宅向けのホームインスペクションを依頼する人は、その物件の買主です。買主が費用を負担して、自分で依頼し、その調査結果も買主に報告されます。買主による買主のためのサービスだと考えてください。
費用
ホームインスペクションを依頼すると、費用がかかりますが、その費用は以下のとおりです(建物の完成後から引き渡しまでの間に利用する前提です)。
サービス | 費用 |
---|---|
基本サービス | 5~6万円程度 |
床下調査 | 1.5~3.5万円程度 |
屋根裏調査 | 1.5~3.5万円程度 |
報告書作成 | 0~1万円程度 |
以上が調査費用の目安ですが、建物の大きさ(規模)や対象物件の所在地によっては、別途料金が加算となることもありますので、インスペクション会社に問い合わせて確認しましょう。
調査内容・範囲
基本的には、ホームインスペクションは、調査時に目視可能な範囲が調査対象となります。建物が完成状態の建売住宅における一般的な調査範囲は、以下のとおりです。
外部
- 基礎
- 外壁
- ベランダ
- 雨樋等の附属する設備
- 屋根
屋根は、地上やベランダから目視できる範囲が対象ですが、階段などで屋上へ上がることができるプランなら、屋上の調査も含まれます。
内部
- 床・壁・天井
- 建具(扉など)
- 設備(キッチン・トイレ・ユニットバス・配管など)
- 床下(土台などの構造材・構造金物・断熱材など)
- 小屋裏(梁などの構造材・構造金物・断熱材など)
床下と小屋裏は、内部の奥まで潜っていく調査は別途オプションとすることが一般的です。
外構
- 玄関ピーチ
- カーポート
- フェンス
ただし、外構は調査対象外とする業者もあるため、依頼前に調査範囲を確認しておくことをお勧めします。
引渡し前のインスペクションと内覧会
建売住宅の引き渡し前に実施するホームインスペクションとは、引き渡しを受ける前のタイミングで建物の施工状態を買主がチェックする内覧会に、専門家である一級建築士などのホームインスペクターを同行して、代わりに又は一緒に施工不具合の有無を確認する検査サービスです。
この専門的サービスは、内覧会立会いや内覧会同行などと呼ばれていることが多いです。
引渡し前の完成状態で行うため、既に隠れて見られない部分の状態を判断することはできないものの、前述したような項目を確認してもらうことができます。
ホームインスペクションの依頼なら
第三者の一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)は、住宅売買・メンテナンスなどに役立つ専門的な技術サービスです。施工不具合や補修すべき劣化事象の有無をプロに診てもらえる。
不動産会社が建売にホームインスペクションが必要ないと言う理由
本コラムの冒頭で述べたように、不動産会社から「ホームインスペクションは必要ない」「診断しても意味がない」「普通は利用しない」などと言われたと相談を受けることがあります。なぜ、このような説明をすることがあるのか、解説します。
施工ミスが見つかることを怖れている
買主がホームインスペクションを入れたいと申し入れしたとき、強い警戒感を示す不動産会社の担当者がいます。これは、不慣れで「何か問題が起こらないだろうか?」と漠然とした不安を抱えたゆえの反応ということもありますが、検査することで施工ミスが見つかってしまうのではないかと怖れていることがあるからです。
確かに、インスペクションの実例としては、いくつもの施工ミスが見つかる住宅も少なくはありませんし、ときには大規模な補修工事を要するような指摘事項が出ることもあります。そういうことになっては、大変だと考えるようですが、それでは、買主がリスクを抱えたまま取引することになってしまいますね。
単純に対応が面倒
買主がホームインスペクションを入れる場合、例えば、窓口が仲介業者であれば、売主の承諾を得たり、調査に長時間の立会いをしたり、必要書類を準備したりと手間が増えます。手間が増えても不動産会社が得る売上や利益は同じですから、面倒なことが増えてしまうと考える人がいるのです。
これは、会社や担当者次第であり、良い担当であれば、何の抵抗もなく受け入れ準備をしてくれることもありますので、買主としては運・不運の問題とも言えます。
瑕疵保険や建築確認制度の検査があるから不要
新築住宅を建てるとき、建売住宅に限らず、注文住宅であっても、住宅かし保険を利用している住宅が多く、その保険加入のための検査を受けています。また、建築基準法に基づいて実施される中間検査や完了検査を受けています。
これらの検査を理由として、二重の検査になるので、ホームインスペクションは不要だと説明を受けることがあるようです。
しかし、瑕疵保険や建築基準法に基づく検査は、その保険の基準や法規に基づいたものであるかどうか確認しているものにすぎず、しかも10~20分ほどの短時間の検査時間でもあり、施工ミスをしっかりチェックしてくれるものではありません。
不動産会社の担当者も、このことを理解しておきながら事実と異なる説明をする人と、事実を知らずに悪気なく誤った説明をしている人もいます。ただし、実感値としては前者の方が多いです。
契約前なら購入してもらえない可能性を考えている
売買契約後ではなく、契約前に購入判断の参考とするためホームインスペクションを依頼する人も多いです。この場合、その調査結果次第では購入しない可能性もあるため、不動産会社としては契約後に利用して欲しいと考えることがあるのです。
大きな買い物だからこそ、契約前に建物の状態を確認したい買主としては、残念なことですね。しっかりと購入前の実施を要望し、交渉してみましょう。
契約前なら先に他の不動産会社が売るリスクを考えている
売買契約前に依頼する場合、インスペクションを手配などしている間に、その物件を別の不動産会社が売却することがあります。このことは、仲介する不動産会社にとっては仲介手数料を得られないというリスクになるため、必要ないなどと言って説得しようとすることがあるのです。
ただし、買主の立場で考えても、先に売れてしまうことはリスクと言えるため、契約後、引き渡し前のタイミングで依頼する人も多いです。
建売にはホームインスペクションが必要な理由とメリット
建売住宅を購入するときに、ホームインスペクションはおすすめです。ここでは、必要な理由、お勧めする理由と依頼するメリットを解説します。
素人が気づかない施工ミスの有無を把握できる
住宅を購入する機会はそう何度もあるわけではないですから、引渡し前の立会いに際して、どこを見るべきかわかりづらいですよね。プロのホームインスペクターであれば、建築知識と経験、ノウハウ、さらにはマニュアルがありますから、一般の人が気づきづらい施工ミスなどにも気付けることが多いです。
たとえば、防水面でリスクがある症状や構造耐力にマイナス影響がありうる症状などは、経験と知識がないと判断しづらいですね。そういった点まで診てもらえることは大きなメリットであり、お勧めする理由でもあります。
引き渡し前に補修要求できる
建売を買って引越しした後に、生活する中で建物の不具合に気づくことがあります。たとえば、暖房が効かずに寒すぎると思っていたら、断熱材の施工不良が広範囲で見つかったとか、床下点検口を開けたら、水溜りがあったなどといったことです。
こういったことの全てとは言えませんが、多くのことをプロのインスペクションで見つけてもらえ、それを引き渡し前に売主に伝えて補修要求することができることもメリットです。決して小さくない問題が入居後に発覚すると対応が大変なので、依頼する必要性があると言えます。
引渡し前もよいが売買契約前のタイミングがオススメ
建売住宅の購入に際してホームインスペクションを依頼するタイミングとして最も多いのは、売買契約後・引き渡し前です。そのときは、売主や仲介業者から買主へ、「引き渡し前の最終確認です」や「内覧会をします」などと立会いするように案内があるので、それをきっかけで調べる中で、「専門家に立会いを依頼できるのか」と知って、依頼する人が多いようです。
この引き渡し前のタイミングで依頼すること自体はよいことですが、できることならば、売買契約の前に依頼しておくことをよりおすすめします。契約前であれば、その物件を購入するかどうか判断するための材料とすることができますし、大きな施工ミスなどが見つかったときには購入を中止することもできるからです。
不動産会社から「契約前にはできない」と言われて、仕方なく契約後に依頼する人もいますが、買ってから後悔しないように、契約前に利用する方向で交渉が頑張ってみることをおすすめします。
執筆者
全国で第三者の一級建築士がホームインスペクション(住宅診断)を行うアネスト。新築・中古住宅の購入時やメンテナンス時などに建物の施工ミスや劣化事象の有無を調査することができる。