マンションの傾き問題に思う偽装とホームインスペクション

横浜市内で大手不動産会社が分譲したマンションにおいて、地盤補強工事に問題があり、そのマンションが傾いたというニュースが出ています。

別のマンションの地盤調査データを転用して、それをもとに問題となっているマンションの地盤補強工事内容を判断して施工した結果、支持層(地盤の固い層)まで杭が届いていなかったとのことです(執筆時点で確認したニュースより)。

まだ、詳細は明らかではありませんが、現時点で確認できる情報の範囲から考えれば、これは2005~2006年に姉歯事件と言われて世間を騒がせた構造偽装問題と同様に人的な偽装問題の可能性が出ているようです。丁度、この時期に今回のマンションが販売されていたようです。

その後も戸建て住宅の筋交い不足の問題やサッシの偽装問題など、いつまで経っても問題の絶えない建築業界ですが、これを完全に防ぐことは今後も難しいでしょう。

一戸建て住宅の場合、建築の途中などに買主がホームインスペクション(住宅検査)を入れることで、多くの施工ミスを防ぐことは可能です。それでも、サッシなど個別の製品の偽装を防ぐことはあまり期待できません。

マンションの場合、買主が建築中にホームインスペクション(住宅検査)を入れることは現実的ではなく、一戸建て住宅のような対処が難しいため、問題は起こりやすいとも言えます。

ただ、今回のような地盤調査データの転用ということになれば、一戸建てにおいてもマンションにおいても、そのようなことをされてしまっては、再度、別の会社で地盤調査をしない限り、防ぐことは難しいのではないでしょうか。

建築中に起こるような施工ミスではなく、人為的に転用したとなれば、転用されたデータを第三者が見ても見抜くことはなかなか難しいでしょう。

以前の構造偽装問題のときには、2度とこういうことは起こすまいと業界人ならば考えたことですが、このように繰り返されてしまったことは残念でなりません。真面目に活動している業界人にすれば信じられないことでしょう。

アネストが一戸建て住宅のホームインスペクションをしているなかで、見ればすぐにわかるような施工ミスが見つかることがありますが、建築業界にはそれを見て見ぬふりする人がいるのも事実です。これは初めから意図的に偽装したものではなく、ミスの見逃しですが。

施工ミスの類も以下のようにわけることができます。

  1. 施工ミス(施工者が気づいていないもの)
  2. 施工ミス(施工者が施工後または施工中に気づいて放置したもの)
  3. 初めから意図的に偽装したもの

上記のいずれもがよくないことであるのは言うまでもありません。しかし、3つ目の「初めから意図的に偽装したもの」については、他よりもひどいものだと感じるのは多くの人にとって同じでしょう。

ホームインスペクションを事業としている会社のものとしては、どうしてもホームインスペクションと絡めて考えてしまいますので、こういったことについても役立てないものかと思わないでもありません。

しかし、上記3点のどの類であっても、現場で検査が入る段階で隠れて見えないことはホームインスペクションでなんとかなるものではありません。ホームインスペクションは万能ではありませんので、今回のような問題を事前に確認することは難しいでしょう。しかし、施工中に生じるミスの多くを防ぐことに役立つことは可能です。

万能ではないものの、日々の活動のなかから大いに役立てている点も多いですから、今後も着実にホームインスペクションの普及に努めていきます。

今回の地盤調査データの転用と傾きの問題については、早期に全容が解明し、被害にあった方々に十分な対応が行われることを願っております。

執筆者:荒井康矩(株式会社アネストブレーントラスト

 

執筆者

アネスト
アネスト執筆担当
住宅購入や新築、リフォーム時のホームインスペクション(住宅診断)を行うアネストが執筆、監修している。