住宅インスペクションを不動産業者が拒否する理由
住宅購入に際して利用されるホームインスペクションは、新築住宅の売買のときも中古住宅の売買のときにも多く利用されます。一方で、新築や中古住宅のインスペクションを利用したいという希望を購入検討者が不動産業者に伝えたとき、稀に拒否されることがあります。拒否されること自体はそう多くないのですが、実際にありうることです。
拒否されたとき、多くの人がそのまま買うべきかどうか迷い、その相談を受けることがありますが、ここで適切に判断するためにも、買主は不動産業者が拒否する理由や事情を知っておくとよいでしょう。今回は、不動産業者が住宅インスペクションを拒否する理由や嫌がる事情の代表的なものを紹介します。
住宅インスペクションの基礎知識
住宅インスペクション(=ホームインスペクション)とは、住宅の建物の施工状態や劣化状態を診断する技術者であるホームインスペクターが行う建物調査のことで、住宅を購入するときの参考とするためや、売却時の資料とするため、さらにはリフォームや修繕の活用するために利用されているものです。
その依頼者は、住宅の買主や売主、注文建築の家やリフォーム工事の施主(=発注者)が多くを占めますが、不動産会社や工務店が依頼していることもあります。
基本的には、診断時に目視可能な範囲を調査対象とするものですが、床下や小屋裏(屋根裏)の調査をオプションとして依頼することができることが一般的です。
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新築住宅の売主が拒否する理由
住宅インスペクションを拒否する不動産業者にも、売主や仲介業者といった立場の違いがありますが、まずは、売主である不動産業者について説明します。
インスペクション後の購入中止を警戒
拒否する理由として最も多いのは、住宅インスペクションを実施した後に買主が購入中止することを警戒していることです。
インスペクションを行った結果として、建物の重大な施工ミスがあるとき、もしくは細かな不具合が数多くあるときには、買主としては心配になるものです。
見つけた施工ミスや不具合については、補修対応してもらうことができますが、隠れて見られない箇所に施工ミスなどが残っているかもしれないと考えるからです。完成物件のインスペクションでは、隠れている箇所までは判断できませんから、この不安を払しょくすることは容易ではありません。
そう多くはないですが、住宅インスペクションの結果次第で購入を中止する人はいますから、売主としては警戒してしまうのでしょう。
自信がない・不具合に気づいている
売主が警戒する気持ちはわからないでもないです。しかし、施工に関して自信があれば、そのような心配は不要ですから、拒否するのは自信のなさの現れとも言えます。
また、現場からの報告などによって施工ミスに気付いていたのではないかと思われるケースもあります。契約前のインスペクション実施を拒否されて、契約後に実施した人がいたのですが、大きなひび割れを補修した痕が見つかりました。補修したわけですから、施工ミスを知っていて黙って売ったのです。
その補修が適切なものであればよいのですが、不十分なものでした。必要な補修工事のためにかかるコスト(材料費よりも人件費が重い)や手間を考えて、表面的な誤魔化しの補修ですませていたのです。
このように、不具合や施工ミスに気づいていて黙って売るケースもありますから、買主は契約前の実施を最優先させたいところです。
住宅インスペクションを受けた経験が少なく何となく警戒
建売住宅の売主は、現場のこと(施工)は工務店に丸投げしていて詳細をわかっていないというケースも多いです。そういった不動産業者なのかには、現場のことがわからないだけに漠然とした不安を感じることがあります。何かを指摘されたとしても、対応方法などについて判断できない業者もいます。
また、これまでに住宅インスペクションを受けた経験がない場合も、漠然とした不安を抱えていて、とりあえず拒否しておこうとすることがあります。
施工ミスを指摘されて補修対応するのが面倒
多くの不動産業者が共通して抱く考えの1つに、面倒なことが嫌だというものがあります。面倒を避けるために、買主を犠牲にするのもどうかと思いますが、住宅購入の流れのなかで買主は知らないうちにそういう場面に多く接しています。
ここでは、施工ミスを指摘された後の対応を面倒だと思っているケースです。単純に補修対応するだけではなく、営業担当と施工担当の間で調整が生じることもありますし、指摘内容によっては契約日がずれることがあって日程の再調整や上司からの詰問などに対応しなければならないこともあります。
仲介業者が嘘をついていることもある
不動産仲介業者から、「売主が拒否しているので、インスペクションを契約前にすることはできません」と言われることがあります。しかし、仲介業者が売主に確認することもなく、勝手にこのようなことを買主に伝えているケースもあります。
契約前に拒否された住宅について、契約後・引き渡し前のタイミングで診断に入ったとき、売主から「うちは、契約前でも希望があれば、承諾しています」と聞いた事例もあります。つまり、仲介業者が嘘をついていたことになるので、依頼者も大変怒っていました。
仲介業者も様々な理由でインスペクションを入れてほしくないと考えていることがあるため、このような嘘をつくことがあるのです。その理由は次に紹介します。
新築住宅購入時に仲介業者が拒否する理由
これまでに多くの住宅に対してホームインスペクションをしてきましたが、新築完成物件のインスペクションでは売主よりも仲介業者が拒否しようとすることの方が多いです。なぜ拒否しようとするのか、嫌がるのか見ていきましょう。
インスペクション後の購入中止を警戒
住宅インスペクションを実施した後に、購入を中止されることを警戒するのは仲介業者も売主と同じです。仲介業者は、成約しない限り手数料収入を得られませんから、何よりも契約締結を優先しがちです。売主ならば、別の人がその物件を買ってくれると思うこともありますが、仲介業者は他の会社がその物件を売ってしまうことを心配するので、売主よりも拒否しようとするケースが多いのかもしれません。
他の買主が先に購入する(他の仲介業者が売ってしまう)ことを警戒
売買契約の前にホームインスペクション(住宅診断)を実施するということは、その分、契約日を先に延ばさないといけないことがあります。このことをリスクだと考える仲介業者は少なくありません。
インスペクションしている間に他の人がその物件を買ってしまうかもしれない、つまり他の仲介業者が先に売ってしまうかもしれないという心配です。ですから、何よりも契約を優先させて、契約後にインスペクションするよう促すことがあるのです。
売主に気を遣っている
仲介業者は売主から物件を売らせてもらっている、といった立場になっていることもあります。売らないと手数料収入を得られないわけですが、売主から売却を任せてもらえないと売るチャンスすらなくなります。そこで、売主に対して過剰に気遣いすることがあるのです。
なぜ売主への気遣いから拒否することになるのかといえば、売主が嫌がるのではないかと予想するからです。実際には「全く気にしないし、むしろどんどん調べてください」という売主であったとしても仲介業者が誤った判断から、拒否していることも少なくありません。
ちなみに、仲介業者が建物の施工ミスのことを知っていて、それがばれることを警戒して拒否するのだろうと考える買主もいますが、そういうケースはほとんどないでしょう。なぜならば、多くの仲介業者は建物の施工品質のことまで知らないからです。
たとえ、施工ミスや不具合があったとしても知らずに販売していることが多いのです。
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中古住宅購入時に仲介業者が拒否する理由
中古住宅の売買に際しても仲介業者が住宅インスペクションを拒否することが稀にありますので、少し触れておきます。その理由は、新築住宅のときとほぼ同じものです。
- インスペクション後の購入中止を警戒
- 他の買主が先に購入する(他の仲介業者が売ってしまう)ことを警戒
- 売主に気を遣っている
以上の3点ですね。
売主に気を遣うのは、売主が不動産会社である場合に起こりやすいです。一般個人の売主である場合は、売主が拒否することはほとんどありません。ただ、本当に売主が拒否していた場合で、購入後にインスペクションしたケースでは高い確率で建物から問題(甚大な被害の雨漏り等)が確認されているので、買主は拒否された物件の購入には慎重になった方がよいでしょう。
拒否理由は本音を言ってもらえないことが多い
ところで、不動産業者から住宅インスペクションを拒否された買主としては、なぜ拒否するのかと思って理由を聞くことになりますね。しかし、その際、不動産業者が本音を語るとは限りません。たとえば、仲介業者から「売主が拒否しています」と聞いたところで、それは事実ではないこともあります。
また、「第三者検査機関で検査しているので大丈夫」と言われても、本当に大丈夫かどうか知っているわけではありません。実際のところは、購入中止を警戒しているなど他の理由があることが多いです。ちなみに、不動産業者や建築会社がいう第三者検査機関は不動会社や住宅メーカー等が出資している業界側の機関であることもあり、短時間の簡易な検査しかしていません。
買主が本当の理由を知ることは難しいですが、リスクを負って購入するのは買主ですから、できる限り契約前に実施できるよう交渉しましょう。
執筆者
全国で第三者の一級建築士がホームインスペクション(住宅診断)を行うアネスト。新築・中古住宅の購入時やメンテナンス時などに建物の施工ミスや劣化事象の有無を調査することができる。