ホームインスペクションが契約前にできない?契約後にするリスクと売主が断る理由や対処方法を紹介

ホームインスペクションが契約前にできない

住宅を購入しようとして、対象物件を絞って購入申し込みする段階で、買主から不動産仲介業者や売主へ「ホームインスペクションをしておきたい」と申し入れしたとき、不動産仲介業者や売主から、「契約前にはできません。購入後にやってください」と契約前の実施を拒否されることがあります。

大きな資金を投入する住宅購入という大きなイベントなのに、拒否されることがあるのかと驚く人も少なくありません。国土交通省でもホームインスペクションを中古住宅の流通促進に必要なものと位置付けて、宅地建物取引業法という法律のなかで、売買契約前にインスペクションのことを規定しているほどなのに、実際に断られて困っている人がいるのです。

この記事では、新築および中古住宅を購入する人向けに、以下の内容を解説します。

この記事の概要

  • ホームインスペクションを契約前に行うべきことと
  • 不動産仲介業者や売主にそれを拒否されることがあること
  • 売主が拒否する理由
  • 契約前の実施を諦めて購入後にする場合のリスク
  • 買主が取るべき対処方法など

できれば、売主と売買契約を締結する前に見ておきたい内容です。

ホームインスペクションとは?基礎知識の確認

ホームインスペクションとは?

ホームインスペクションが契約前にできないとか、できるとかの話の前に、インスペクションの基礎知識をおさらいしておきます。

ホームインスペクションとは?

住宅を対象として、建物の構造耐力や雨漏りなどに関わる施工不具合や劣化事象の有無を確認する建物調査のことをホームインスペクションと言います。

一戸建てやマンション、アパートのいずれもが対象となり、新築も中古も対象となります。

インスペクションを行う人をホームインスペクターや住宅検査員、住宅診断士などと呼びますが、一般的に必要とされている資格は、建築士です。そして、中古住宅の場合は、既存住宅状況調査技術者も必要です。

ホームインスペクションを契約前にするメリット

ホームインスペクションは、契約前に利用することが推奨されていますが、その理由は以下のメリットがあるからです。

  • 建物の状態を把握してから購入判断できる
  • 問題なければ、安心して住宅を購入できる
  • 大きな欠陥が見つかれば、購入を中止することができる

建物の状態が悪い場合、購入後の補修工事費用の負担や売主との補修交渉などでお金と時間が必要となり、対応が面倒です。そのリスクを減らすために、ホームインスペクションが活用されています。

契約前に実施するための流れ

ホームインスペクションを売買契約前に行うための流れは以下のとおりです。

  • 物件の内見(現地見学)
  • 売主に購入の申し込み(同時にホームインスペクション実施の申し入れ)
  • ホームインスペクションを実施
  • 購入するかどうか最終判断
  • 売買契約の締結
  • 引き渡し

以上が一般的に考えられる流れですが、最初の物件の内見時に、不動産会社の営業担当へ「ホームインスペクションを依頼する予定だ」と伝えておくとスムーズに進められることがあります。

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ホームインスペクションは契約前にできない?

ホームインスペクションは契約前にできない?

今回の記事の本題は、ホームインスペクションは契約前にできないか?という点です。多くの場合、契約前に実施できるのですが、できないこともありますので、その点をここで解説します。

契約前にできるかどうかは売主次第(売主は拒否できる)

売買契約を締結する前ということは、その住宅の所有者は売主です。買主がホームインスペクションを行いたいと申し入れしても、所有者である売主は、それを自由に拒否することができます。

拒否することによって、購入検討していた人が、購入を中止することもあるので、売主はそのことも考えて、受け入れするのか、拒否するのか考えることになります。

つまり、契約前にホームインスペクションをできるかどうかは、売主次第ということです。

しかし、売主は、不動産仲介業者の意見を聞いてどうするか判断することが多いため、その仲介業者の対応も実施可否を大きく左右することが少なくありません。

中古住宅のインスペクションは契約前の実施が前提か?

この記事の冒頭で、「国土交通省でもホームインスペクションを中古住宅の流通促進に必要なものと位置付けて、宅地建物取引業法という法律のなかで、売買契約前にインスペクションのことを規定している」と書きました。

これは、中古住宅の売買に際して、ホームインスペクションに関して、以下のことを義務付けていることを言っています。

  • 媒介契約時に建物状況調査の実施者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付すること
  • 買主等に建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明すること
  • 売買契約時に建物の状況について売主と買主が確認した事項を記載した書面を交付すること

ちなみに、宅地建物取引業法のなかでは、ホームインスペクションのことを建物状況調査と呼んでいますので、上の文章内の建物状況調査は、ホームインスペクションを指すと考えてください。

これは、ホームインスペクション業者のあっせんについて媒介契約の締結時に説明すること、インスペクションの調査結果の概要を売買契約前の重要事項説明の際に説明することなどを規定しているわけですので、事実上、不動産仲介業者から売主や買主にホームインスペクションの存在を伝えて、利用するかどうか意思確認するようなものです。

ただし、インスペクションの実施を義務付けているわけではありませんので、もしホームインスペクションを実施するのであれば、契約前の実施を前提として、中古住宅の流通促進を目指していると考えられます。

売主が拒否する理由

売主がホームインスペクションを拒否する理由は以下の3つです。

  • ホームインスペクションで何か大きな不具合が見つかると購入してもらえないと考えているから
  • 売主が気づいている問題点が購入検討者にばれることを怖れているから
  • ただ意味もわからず気持ちの問題で拒否している

これらの理由は、いずれも買主側としては納得しづらいものですね。

なかには、不動産仲介業者が上手に売主に説明すれば、理解を得られそうなケースもありますが、仲介業者にもインスペクションをせずに買ってもらうことを優先的に考えている営業担当者がいるので、簡単に「売主が拒否しているので、契約前にできません」と言いがちです。

契約後や引渡し後にホームインスペクションをするリスク

購入後に診断するリスク

売主の拒否により、売買契約後や引渡し後に(つまりこう移入後に)ホームインスペクションをする人もいます。契約前にできないなら、仕方ないことですが、購入後に行うことのリスクを紹介しておきます。

契約前に知っていたら購入しなかった問題が購入後に見つかる可能性

ホームインスペクションを契約前にするメリットとして、「大きな欠陥が見つかれば、購入を中止することができる」を挙げました。このような重大な欠陥が購入後に見つかる可能性があるわけで、それは、契約前に知っていれば購入しなかっただろうことでもあります。これは大きなリスクですね。

売主に補修や損害賠償を求めても対応してくれないことがある

購入後に見つかった不具合について、売主へ補修や損害賠償を請求できることがあります。

新築住宅ならば、売主には契約不適合責任(改正前の民法で言う瑕疵担保責任)や10年保証(住宅品質確保の法律によるもの)があるので、その対象範囲のことなら請求できます。中古住宅でも、売買契約の内容次第で補修等を請求できます。

しかし、法律や契約上の売主の責任がある場合でも、買主が希望するようにスムーズに売主が対応するとは限りません。手間と費用負担が生じることなので、なかなか動いてくれないということがあります。

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契約前のインスペクションを断られたときの対処方法

契約前のインスペクションを断られたときの対処方法

売主より契約前のホームインスペクションを断られたとき、買主が取るべき対処方法を紹介します。

簡単にあきらめず交渉する

多くの場合、不動産仲介業者を介して、「売主が拒否している」などと聞かされるわけですが、そのときにとりあえず断って買主側の反応を見ているということがあるので、簡単に承知しないことが1つのポイントになります。

「ホームインスペクションをしないことは、購入に踏み切れないから売主にもう一度、お願いして欲しい」などと伝えて粘ってみましょう。

購入を中止する

どうしても、売主が拒否して受け入れてくれない場合は、前述したようなリスクがあることを考えて、思い切って購入を中止することも考えてみましょう。

拒否されたことに対して、購入中止を伝えると、すぐに売主側の態度が変わって受け入れてくれることもあります。

そして、現場へ診断に伺ってみると全然嫌がる反応もなく、「自由にどこでも診てもらって大丈夫です」と言ってもらえることもあり、本当に売主が拒否していたのか、不動産仲介業者が勝手に断ろうとしていたのかわからないこともありました。

契約不適合責任の内容と期間を確認し、引渡し後すぐにホームインスペクションを行う

中古住宅の売買では、新築住宅と違って、売主の契約不適合責任が免責とされている取引もあります。そのことを買主がきちんと理解していないまま購入していることもあり、その意味を知ったときには手遅れというケースもあります。

売主の契約不適合責任の有無・対象範囲・期間を売買契約の締結前に確認し、引渡し後すぐに(契約不適合責任の期間内に)ホームインスペクションを実施してください。自分たちの家具・家財道具を搬入する前(引っ越しする前)の荷物が何もない状況で依頼することをおすすめします。

ホームインスペクションに関してよくある質問

よくある質問

今では多くの人が利用するようになったホームインスペクションですが、それでも何度も利用する機会がないこともあって、基礎的な質問を頂くことは多いです。代表的な質問への回答を紹介しておきます。

インスペクション費用はどれくらいか?

ホームインスペクションを依頼すると調査費用がかかります。その費用の相場は凡そ以下の範囲です。

一戸建て5~15万円
マンション4~8万円

 
 

対象物件の所在地、面積、オプションサービスの利用有無などの条件によって、小さくない差異があります。また、安い業者に依頼すると経験値・ノウハウなどのレベルの問題を抱えていることもあるので、価格比較だけで判断するのではなく、担当の資格や業者の実績、報告書(レポート)のサンプルなどを確認して判断しましょう。

調査範囲はどこまでか?

ホームインスペクションの調査範囲は、建物の本体の基礎・外壁・屋根・室内(床・壁・天井)・設備などのうち、調査時点に現場で目視確認できる範囲です。建物の形状などによって、確認できる範囲に差異があり、屋根や屋根裏、床下を全く確認できない住宅もあります。

また、建物本体ではなく、外構部分(塀・フェンス・カーポート・門扉・アプローチなど)を診てくれる業者と診てくれない業者があります。外構にも重大な瑕疵が見つかることはあるので、診てもらうことをお勧めします。

購入すると決めているなら、契約後の利用でもよいか?

対象の住宅を購入すると決めているので、売主や不動産仲介業者との摩擦、関係性を考えて、契約後や引渡し後に利用しようと思うがどうか?と相談を受けることがあります。

「少々の問題があっても購入する」と考えている人の場合、その少々のレベルを超える大きな問題が見つかった場合はどうでしょうか?

それぞれの人によって考え方の相違があるのは当然のことですので、「購入すると決めているから買った後に利用する」という判断を尊重しますが、本当にそれでよいかは慎重に考えてみましょう。

ホームインスペクションは必要か?

ホームインスペクションは必要か?と聞かれることは多いですが、結論をはっきり言えば、必要なものだと考えています。

この記事を書いているアネストでは、これまでに非常に多くの住宅に対してインスペクションを実施してきましたが、本当に多くの建物の不具合を見てきました。それは、新築住宅でも中古住宅でも同じです。その経験から、ホームインスペクションは必要だとはっきりと言えます。

まとめ(契約前のホームインスペクションの重要性)

この記事では、ホームインスペクションを契約前にできないと言われることがあることやその理由と対処方法などを紹介しました。

前述したとおり、アネストでは多くの物件のホームインスペクションをしてきましたが、大きな欠陥が見つかったために購入を中止した人はたくさんいますし、購入後に利用したことを後悔している人もいました。購入後に見つかった不具合への対応は、売主や不動産会社の担当者によって全然違いますが、対応の悪い業者たちであっても購入前に中止できていたなら、買主側の被害はなかったわけです。

まずは、契約前にホームインスペクションを行うことを優先的に考えて、不動産会社などへ要望・交渉を行ってください。

執筆者

アネスト
アネスト執筆担当
住宅購入や新築、リフォーム時のホームインスペクション(住宅診断)を行うアネストが執筆、監修している。
アネストのホームインスペクション

全国で第三者の一級建築士がホームインスペクション(住宅診断)を行うアネスト。新築・中古住宅の購入時やメンテナンス時などに建物の施工ミスや劣化事象の有無を調査することができる。