工場で加工された住宅(工業化された住宅)が安心は嘘

今、新築住宅の多くはその部材の多くは工場で生産されています。ハウスメーカーや工法にもよりますが、工場で加工される工程が多くなっていることは事実です。「工場で加工された部材を現場で組み立てるだけなので、最近の新築住宅で欠陥工事が生じることはない」「今の住宅は工業化されているため、施工ミスはほとんどおこらない」などと言われることがあります。

住宅の工業化の問題

それは本当のことでしょうか?

結論から言えば、事実の部分と嘘の部分が混ざっていると言えます。

工場で加工される工程が増えていることは事実です。ただ、このことが欠陥工事や施工ミスの減少、または品質の確保に簡単には結びついていないというのが真実です。このことを裏付けるデータがあります。「公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住宅トラブルの相談を受け付けている)」の発表では、新築住宅不具合等に関する相談件数は年々増えており、2013年の相談件数は15,000件を超えています。

1年で15,000件というのは驚くべき数値です。細かなこと、消費者側が無茶を言っていることなども含まると思われますが、それでも件数が増えていっているわけですから、新築住宅の不具合に関するトラブルは増えていると考えてよいでしょう。

住宅が工業化されることには、メリットもデメリットもありますので、まずはそれらを見ていきましょう。

○住宅工業化のメリット

  • 部材の均一化を実現しやすい
  • 建築業界の人手不足を補える
  • 工事期間の短縮
  • コストを抑えられる(安く買えるとは限らない)
  • 低価格の住宅が増え、新築住宅を買いやすくなった

工業化(工場で生産・加工)することによって、各部材の品質を保ちやすくなったり、生産過程の自動化や効率化によって現場での作業量を減らすことができ建築業界の人手不足を補うことができたりすることは大きなメリットだと言えます。今後も建築業界の人手不足は業界の大きな課題ですが、この問題に役立っていると言えます。

現場での作業量が減ることで、工期を短縮することができます。工業化、工期短縮といったことは、建築コストを抑えることになるため、これもメリットだと言えます。ただし、コストを抑えた分、買い手が安く買えるとは限りません。

抑えたコストをほとんどハウスメーカーの利益としたり、販促費などに転じたりしていることが多く、大手ハウスメーカーの住宅はむしろ高額になっているのではないかと感じます。一方で住宅の低価格化を推し進める会社もあり、新築住宅を買いやすくなったという点もメリットになっています。もちろん、低価格化は工業化によることがだけが要因ではありません。

○住宅工業化のデメリット

  • 現場の職人の技術力が低下
  • 工場出荷前の検品が不十分なことが少なくない(不良品の出荷)
  • 現場で容易に部材の補修ができないことがある
  • 不良品の交換が面倒なため、不良品とわかって使用されることがある

工業化によるデメリットや弊害もあります。現場での作業量の減少や作業の簡易化は、職人の経験に直接的に影響するため、現場の技術力低下が業界の悩みの種になっています。現場では、工場から出荷された部材を組み立てるだけの簡単な作業だと考えている人も多いですが、実際には現場で起こる施工ミスも多いです。

現場での作業が簡易化されても職人のレベルが下がれば、結局は同じだということです。新築住宅の建築中のホームインスペクションを何度も何度もやっていればわかることですが、「なぜ、このような初歩的なミスをするのか?」と不思議に思うことは多いです。

職人のレベル低下は工業化だけが原因ではなく、技術を引き継ぐ業界システムが崩壊していることも大きな要因となっていることは確かです。

そして、工場で生産・加工した部材には問題ないと決めつけている人は驚かれるかもしれませんが、現場でホームインスペクション(住宅検査)をしていると、意外と不良品があることに気づきます。工場から出荷される前に全数の検品をしているわけではないからでしょう。

不良品の状態や部材などにもよりますが、不良品を現場で補修できないこともあります(現場の技術力の低下やそもそもできない部材というケースもあります)。不良品があれば、どうするかというと交換することになるわけです。

しかし、現場の職人の多くは下請けや孫請け業者であり、その現場だけではなく他の現場も掛け持ちしていたり、次の現場へ入る時期が決まっていたりすることが多く、なかなか多忙です。また、元請からの請負金額が安くて同じ現場にそれほどの日数を避けないという事情を持っていることも多いです。

そのため、不良品を見つけてから交換の手配をして納品されるのを待っていては、職人にとっては時間や収入の損失になってしまうため、そのまま不良品を使用してしまうこともあります。不良品だとわかっていて使用しているので驚きですが、第三者としてホームインスペクション(住宅検査)に入った際に何度も見てきた事実です。

だから、工場で加工された住宅(工業化された住宅)だから安心できるかと問われれば、答えは「ノー」だとなってしまうわけです。結局は、その過程で関わる人や会社によって適切に運用されなければならないということは間違いありません。

 

ホームインスペクションのアネスト

 

執筆者

アネスト
アネスト執筆担当
住宅購入や新築、リフォーム時のホームインスペクション(住宅診断)を行うアネストが執筆、監修している。