新築一戸建て住宅の施主検査の基礎知識とチェックポイントと指摘事例
新築一戸建て住宅を建築する人にとって、建築途中や完成が近づいた頃に悩む問題の1つが、施主検査です。
施主検査は、建物の施工状態などを確認して、引渡し後や入居後に後悔しないために必要な補修工事を求める必要がある大事な機会ですが、その意味するところや、施主がやるべきこと、準備すべきこと、そして失敗しないための注意点を理解していないと失敗してしまうことがあります。
そこで、施主検査の意味や内容などの基礎知識を紹介した上で、検査で確認すべきチェックポイントや、検査時に実際に見つかった施工不良などのトラブル事例、最悪な結果としないための注意点を解説します。
この記事は、主に始めて家を建築する人向けに書いていますが、リノベーションや大規模リフォームをする人にも役立つ内容となっていますので、参考にしてください。
施主検査の基礎知識
施主検査で失敗しないため、適切に乗り切るためには、まずその意味を正しく理解すべきですから、ここで基礎知識を紹介します。
施主検査とは?
施主検査とは何か説明します。
まず、施主とは、その建築工事の発注者のことです。工事という請負業務を発注するのであって、建物を売買するのは違います。よって、建売住宅の買主は施主ではありません。注文建築の家の発注者が施主です。ただし、建売住宅の事業主(売主)が建築会社に工事を発注した場合、その事業主はその工事の施主でもあります。
そして、その施主が現地で行う検査を施主検査と言います。ちなみに、「施主検査」の読み方は、「せしゅけんさ」です。
つまり、注文建築の家なら発注者が行う検査を指しており、建売住宅なら事業主が行う検査を指しています。
この記事は、消費者向けに書いていますので、ここで言う施主検査は、基本的には注文住宅の家の発注者が行うものです。
施主検査ですること
施主検査で施主がやるべきことには、大きく分けて以下の2つがあります。
- 施工不良の有無(工事品質)の確認
- 図面・仕様書との照合(契約通りの建物かどうかの確認)
建物の施工状況を現場でチェックして、施工不良がおきていないか確認することと、契約した図面や仕様書どおりに建築されているか確認することです。どちらも大事なことです。
そして、もう1つ、建築途中なら工事進捗が計画通りであるか、大幅に遅れていないかも確認すべきです。工事が遅延する現場は多いですが、それを施主が把握していないと、引っ越し前の自宅の賃貸契約の解除時期や引越し業者の手配時期で困ることになるでしょう。
施主検査のタイミング
施主検査を行うタイミングは、建築途中と完成後・引き渡し前の2回の機会があります。また、建築途中にも、基礎完成後や構造躯体の完成後、断熱工事を終えたところなど、複数回の機会を設けることもあります。つまり、住宅によって違いがあるというころです。
住宅によっては、完成後・引き渡し前のタイミングにのみ施主検査を行っているケースもありますが、施主の立場としては、建築途中も確認しておくと安心感があります。
竣工検査とは?
竣工検査とは、建物が完成したときに実施する検査のことです。建物の施工不良などの不具合の有無を確認することと、発注通りの建物が出来上がっているか確認することが主な目的です。
これは、完成後・引き渡し前のタイミングに実施する施主検査と同じです。つまり、このタイミングで行う施主検査は竣工検査とも言うのです。
内覧会とは?
住宅を購入や新築した人が、建物完成後・引き渡し前に建物の施工状態を確認する機会は内覧会とも呼ばれています。これは、前述した竣工検査と同じ意味で使われている言葉でもあります。ただし、内覧会では竣工検査としてのチェック機会という意味だけではなく、家具やカーテンの設置のための採寸をしたり、建築会社から設備等の説明を受けたりする機会でもあるので、完全に同じ意味とは言えません。
誰が施主検査に立ち会うか
施主検査には、施主が立会うのは当然ですが、それ以外に誰が立会うのか紹介します。
- 現場監督
- 設計者(監理を兼ねていることが多い)
- 営業担当者
一般的には、以上の3者が候補です。ただし、大手ハウスメーカーに発注した場合は、設計者が立ち会わないケースも多いです。一方で、小さな工務店に発注した場合は、その社長が立会うことも珍しくありませんし、社長が現場監督を兼ねていることもあります。
必要性
稀にではありますが、施主検査をしないという小さな工務店の話を聞くことがあります。施主が、建物の施工状態などをチェックする機会を与えず、建築代金を払ってもらって引渡して終わりというのは、あまりにも意識が低すぎるというものです。
施工不良があれば補修対応してもらう必要がありますし、契約図面と相違する工事をしていたら、是正してもらわないといけません。よって、施主検査の必要性は非常に高いと言えます。
もし、工務店から「施主検査はありません」と言われてもあきらめず、しっかり交渉して実施してもらってください。
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施主検査で確認すべきチェックポイント
施主検査で施主が確認しておくべきチェックポイントについて、建築途中と完成後に分けて紹介します。
建築途中の施主検査のチェックポイント
建築途中に検査するポイントはいくつもありますので、その工程を挙げます。
- 掘り方(遣り方):建物の配置、根伐りの状態など
- 基礎配筋(底盤):鉄筋の径・配置・ピッチ、継手長さ、定着長さ、かぶり厚さ、型枠設置状態など
- 基礎配筋(立上り):鉄筋の継手長さ、定着長さ、かぶり厚さ、型枠設置状態、アンカーボルト、ホールダウン金物など
- 基礎コンクリート打設:打設箇所の清掃状態・散水、バイブレータの実施、アンカーボルトやホールダウン金物のずれなど
- 基礎コンクリートの仕上り:著しいひび割れ・ジャンカ・空洞・コールドジョイントなど
- 構造躯体の金物:柱・梁・筋交い・小屋組等の構造材・金物・構造用合板(釘の状態も)など
- 防水:屋根および外壁の防水シートなど
- 断熱:断熱材の種類・厚さ・隙間など
- 下地材:壁などの下地材の種類・厚さ・ビスなど
完成後・引き渡し前の施主検査のチェックポイント
完成後、引渡し前のタイミングで行う施主検査のチェックポイントを挙げます。
外部
基礎、外壁、軒裏、屋根、バルコニー、樋、外構(フェンス・車庫など)
内部(建物内)
床・壁・天井、建具(扉・引き戸)、サッシ、キッチン・トイレ・浴室・洗面台などの水周り設備、床下(基礎、土台等の床組みと構造金物、配管、断熱材)、小屋裏(小屋組みと構造金物、雨漏り跡、断熱材)
新築の施主検査で見つかった施工不良・トラブルの事例
新築一戸建て住宅の施主検査に第三者の専門家として、アネストの一級建築士が立会いし、ホームインスペクションを実施したときに見つかった施工不良やトラブルの事例を写真付きで紹介します。様々な指摘事例がありますが、ここでは見つかる頻度が高い不具合を中心に紹介しています。
外壁材の割れ
外壁サイディングの一部で割れが確認されました。新築住宅でも完成時点でこのような割れが生じていることがあります。
外壁の配管周りの隙間
外壁の配管貫通部の周りに隙間がありました。この隙間から壁内へ雨水が浸水して雨漏りする可能性があるものです。
サッシ枠のビス忘れ
サッシの枠にはいくつものビスがありますが、その一部でビス漏れが見つかりました。多くの箇所でビス忘れが見つかることがあります。
床下の断熱材の落下
床下で、床材の裏に設置された断熱材が落下している状況です。床下で多く見つかる指摘事例です。
小屋裏の断熱材の設置不良
小屋裏(屋根裏)で、断熱材が乱雑に置かれており、一部では断熱材が無い状況でした。小屋裏は、普段見ることがないこともあって、手抜き工事となっているケースもあります。
小屋裏の水染み
小屋裏(屋根裏)の野地板に水染みがありました。完成時の施主検査で、この症状が見つかった場合、雨漏りとは限らず、建築途中に濡れた可能性も考慮します。状況次第で、漏水有無を経過観察する必要もあります。
床下の水染み
床下の基礎底盤のコンクリート表面に水染みがありました。基礎の打ち継ぎ部からの漏水、給排水管からの漏水、建築途中に降り込んだものなどが考えられます。
含水率が高い
床下の構造材において含水率を計測したところ、数値が高い箇所がありました。建築途中の水濡れや漏水なども考慮する必要があります。
床の傾斜が大きい
新築住宅でも完成時点で床の傾斜が大きいことがあります。3/1000を超えると注意を要し、6/1000を超えると問題があるとされています。このケースでは、5/1000ですから注視すべき状況です。
基礎のひび割れが大きい
床下で、基礎コンクリートのひび割れが、巾0.5mmの箇所がありました。補修すべき状況ですが、さらに半年後、1年後の経過観察も推奨です。
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施主検査を最悪なものとしないための注意点(後悔しないための対策)
住宅を購入する機会は何度もあることではないですから、後になって失敗したと思いたくないですし、後悔したくもないですね。そのために施主検査は大事なイベントの1つだと言えますが、その検査自体を最悪な結果に終えたり、無駄にしたりしないためにも施主が注意しておくべきことを解説します。
建築会社に施主検査の実施日を確認しよう
建築会社によっては、積極的に施主検査を実施しようとしない業者もありますので、施主側から働きかけをすべきときがあります。建築工事請負契約をする段階に施主検査を実施する時期を聞くことで、実施しようとしているかどうか確認できますし、完成日が近づいてから聞くことでも確認できます。
早めに建築会社に聞いてみるとよいでしょう。ただし、聞くまでもなく、全体スケジュールを書類でもらうとそこに記載されていることもあるので、受領書類もよく確認しましょう。
完成時の施主検査は引渡し前の2週間前が理想
完成時のタイミングで行う施主検査は、その実施時期も重要です。検査で指摘したことを補修してもらい、さらに補修後の状況を現地確認してから引き渡しをすべきですので、それらの対応を考えれば、引き渡し日の2週間前までに施主検査を行うのが理想です。
遅くとも1週間以上前には実施すべきですが、これではスケジュールが厳しくなることもあるため、2週間以上前で調整することをおすすめします。
完成時の施主検査は完成後に実施すべき
完成時に行う施主検査は、当然のことながら、建物が全て完成した後に実施すべきものです。外構工事があるなら、その工事が完了してから実施するとなおよいでしょう(外構工事を別業者へ発注の場合は除く)。
しかし、工事が大幅に遅延したとき、引き渡し日や引越し日までのスケジュールにゆとりがなくて、完成していないにも関わらず、施主検査を行って、且つ引き渡しまで受けてしまう人がいます。適切なタイミングで実行しないと、チェックすべき項目を確認できないこともありますし、未完成の住宅では竣工検査としての施主検査には適していないと言えます。
検査の開始時間と所要時間
施主検査を行う時間は大切なものです。完成後であったとしても、まだ各部屋の照明が付いていないわけですから、暗くなると見づらくなってきます。よって、季節にもよりますが、遅くとも14時頃までに開始するようにすることをお勧めします。
また、所要時間は、建物の規模や指摘事項の数などによって差異が大きいですが、専門家が同行して検査する場合なら、床下・屋根裏の確認まで含めて3~4時間くらいかかることが多いです。
床下や小屋裏(屋根裏)もチェックすべき
建物の施工不具合は、外壁やバルコニー周りで見つかることが多いですが、床下や小屋裏の奥で見つかることも非常に多いです。点検口から床下や小屋裏の中へ入っていって確認する箇所ですが、普段は見ることのないこういった場所にこそ不具合が多いです。
よって、施主検査の際は、できれば、ホームインスペクターのような専門家に床下や小屋裏の中までチェックしてもらうとよいでしょう。専門家が行う住宅検査は、ホームインスペクションと呼ばれていて、依頼者は非常に多いです。
平面図と立面図は持参しよう
施主検査の当日、施主が持参すべきものとしては、平面図と立面図です。全ての設計図を持参するのは大変ですし、そもそも使うこともありません。平面図と立面図があれば、現地で見つけた施工不良などの指摘箇所をマーキングしておくことで、補修後の再確認時に場所を見つけやすくなり、大変便利です。筆記用具と一緒に持参してください。
そして、スマホなどで指摘箇所を撮影しておくのもお勧めです。後でどのような指摘をしたか思い出しやすくなるでしょう。
最終図面と照合する
施主検査が始まると、持参した図面を見ながらコンセントやスイッチの位置が図面どおりで間違いないか、棚のサイズは合っているかといったことを確認していく必要があります。
ここで注意してほしいのは、持参する図面です。1つ前の項目で平面図と立面図は持参しようと述べましたが、それが最終図面であるかどうかきちんと確認してください。
特に注文建築の家の場合、何度も何度も図面を変更していくうちに、どれが最終図面なのかわからなくなっている人は少なくありません。最終図面でないものと照合すると、誤った指摘をすることになりますし、工務店やハウスメーカーとトラブルになることもあります。
補修後(是正工事後)の再チェックも重要
施主検査では、いろいろな施工不具合などを指摘することになりますが、指摘しただけで安心はできません。それがきちんと補修されたのか、再確認する機会も大切です。再内覧会と呼ばれることもある機会ですが、補修完了後の状況を施主が現地へ出向いて再チェックすることをお勧めします。
工務店側から、「引き渡し当日に補修結果を確認してください」と言われることがありますが、そのタイミングで適切に補修できていないことがわかっても、引き渡し日の延期が難しいでしょう。よって、必ず、引き渡し前のタイミングで施主が現地へ出向いて再チェックすることをお勧めします。
施主検査に関するよくある疑問と回答
施主検査について、施主からよく聞かれることがある質問(疑問)とその回答を紹介します。はじめての施主検査を迎えるにあたって参考になることも多いでしょう。
専門知識と経験がなくても大丈夫か?プロのホームインスペクターの同行依頼は不要か?
家を建てるのが初めてなら、施主検査も初めての経験です。それだけに、専門知識や経験の必要性についてわかりづらいのでしょう。
適切な検査をするためには、住宅建築に関する専門知識と現場経験が必要です。建築士であっても知識や経験が不足していて適切に対応できない人もいるくらいですから、知識と経験が無くても大丈夫だとは言えないです。
プロのホームインスペクターなら、知識・経験・ノウハウに基づいてホームインスペクションを実施しますので、相談するとよいでしょう。
施主検査(内覧会)のやり直しはできるか?
きちんと準備せずに施主検査に行った人が、その終了後に不安になり、やり直しできるか?と質問することがあります。引き渡し前にやり直しをするとなると、建築会社の許可が必要ですので、その許可を取れるかどうか次第ということになりますが、多くの場合、施主から丁寧にお願いすれば、再度、機会を設けてくれます。悩まず、建築会社にまずは相談するとよいでしょう。
大雨でも問題なく検査できるか?
施主検査と天候の関係について疑問を持つ人も多いです。雨が降っても問題なく実施できるか?との疑問です。
基本的には雨天であっても大丈夫ですが、強風を伴うような大雨の場合、外壁などの外部を見づらくなることがあるため、日程延期も考えるとよいでしょう。特に台風が直撃するような状況で強行すべきではないでしょう。
建築会社の説明が言い訳に聞こえるが大丈夫か?
施主検査で施主側から指摘したことに対して、建築会社が、「それは問題ない」「許容範囲だ」「どこでもそういうものですよ」などと説明されることも多く、それが本当なのかどうか判断できず、困っている人も少なくありません。
建築会社との信頼関係の問題もありますが、利害関係を考慮すれば、信じづらいときがあるのも理解できます。
実際に、本来ならば補修対応すべきようなことを許容範囲などと主張する人もいるため、注意が必要です。そういうとき、専門家のホームインスペクションを依頼していたら、客観的な意見を聞くこともできて安心感があるでしょう。
ホームインスペクションの依頼なら
第三者の一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)は、住宅売買・メンテナンスなどに役立つ専門的な技術サービスです。施工不具合や補修すべき劣化事象の有無をプロに診てもらえる。
執筆者
全国で第三者の一級建築士がホームインスペクション(住宅診断)を行うアネスト。新築・中古住宅の購入時やメンテナンス時などに建物の施工ミスや劣化事象の有無を調査することができる。