中古住宅のホームインスペクションを依頼する前に知るべき基礎知識をプロが解説

中古住宅のホームインスペクション

中古住宅の売買に際して、ホームインスペクション(住宅診断)が利用されていますが、これは売主からも買主からも依頼されています。多くの場合、はじめて依頼するものであるため、基礎知識がなく、業者選びや重要性について判断をしづらい現実があります。

そこで、中古住宅のホームインスペクションを利用する上で知っておくべき知識として、その重要性や調査対象範囲、利用する流れやタイミング、費用、業者選びの方法、当日に立ち会う人について解説します。依頼する前に読んでおきたい記事です。

Contents

ホームインスペクションとは何か?

ホームインスペクションとは?

ホームインスペクションとは、住宅の建物について、施工ミスや著しい劣化症状の有無を確認する調査です。

不動産取引における重要なプロセスの1つで、新築・中古住宅の購入のときや中古住宅の売却のときに行われることが多いです。

建築士などの専門家が、建築知識や経験のない素人に代わって建物の施工不具合や劣化の有無を調査して、報告書へまとめて依頼者へ報告しますが、この報告書は、購入者と売り手にとって価値のある情報源で、価格交渉や補修の参考材料として役立ちます。

中古住宅とは?

中古住宅とは?

念のために中古住宅が何であるか説明しておきます。

中古住宅の要件

中古住宅とは、以下の2点のいずれかに該当するものです。

  • これまでに誰かが居住したことがある住宅
  • 建物の完成後1年超の期間を経過した住宅

ちなみに、フラット35の融資においては、完成後1年ではなく2年超を経過したものとされています。

「これまでに誰かが居住したことがある住宅」が中古住宅とされるのは、誰でも理解できると思いますが、「建物の完成後1年超の期間を経過した住宅」がなぜ中古扱いされるのか疑問を持つ人も多いでしょう。

新築として販売していたものの、なかなか売れずに残っている物件では、完成後1年超の物件もよくあります。これが中古住宅として扱われるわけですが、不思議に感じる人もいます。

新築住宅のつもりでも1年超の売れ残りは中古住宅

しかし、1年超で中古住宅とすることには、根拠がありますので、説明します。

住宅の品質確保の促進等に関する法律の第2条の2項で、新築住宅について以下のように定義しています。

この法律において「新築住宅」とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して一年を経過したものを除く。)をいう。

住宅の品質確保の促進等に関する法律

つまり、誰も居住したことがない住宅であっても、完成後1年超を経過すれば新築住宅ではないということですから、中古住宅ということになるのです。

中古住宅を購入する際のホームインスペクションの重要性

ホームインスペクションは、中古住宅の購入プロセスにおいて欠かせない重要なステップです。なぜなら、建築知識・経験が不足する一般の人の代わりに専門家であるホームインスペクターが調査することによって、一般の人が気づきづらい問題(欠陥工事や著しい劣化)を明らかにし、依頼者に大きなメリットをもたらすからです。

中古住宅のホームインスペクションの様子
中古住宅のホームインスペクションの様子

対象物件の状態を客観的に評価する手段として重要

まず第一に、ホームインスペクションは対象物件の状態を客観的に評価する手段です。外観や内装は美しいかもしれませんが、壁の中や屋根の下には様々な潜在的な問題が潜んでいるかもしれません。ホームインスペクターは、経験と専門知識をもとに、外壁、基礎、給排水設備、断熱材などを調査し、問題点を挙げていきます。

住宅購入者にとって大事な役割を果たす

第二に、ホームインスペクションは購入者にとってリスクを最小限に抑える役割を果たします。報告書に記載された問題や補修が必要な項目は、価格交渉や修繕計画に活用できます。これにより、購入者は想定外の費用や将来のトラブルを減らすことができます。

売主にもメリットがある

第三に、ホームインスペクションは売り手にもメリットがあります。正直な報告書は、物件の状態を明示的に示し、購入者の信頼を築くのに役立ちます。また、診断で指摘された問題を補修対応することで、対象物件の価値を維持または引き出すことができます。

買主と売主の双方の公平性を期待できる

最後に、ホームインスペクションは購入者と売り手の間に公平な取引を実現する要素でもあります。情報の客観性や透明性が保たれ、不動産取引がスムーズに進行します。このことは、売主にも買主にも不動産仲介業者にもプラスの要素です。

中古住宅の購入においてホームインスペクションは不可欠で、購入者と売り手の双方にとって多くのメリットがあります。購入前に専門家による詳細な調査を受け、物件の状態を把握することは、賢明な不動産取引の一環と言えます。

新築建売のホームインスペクション

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調査対象の範囲・部位分

中古住宅のホームインスペクションでは、主に以下の部位が調査対象範囲となっています。

屋外

  • 主に基礎、外壁、軒裏、屋根
  • 外構を調査することもある

屋内(建物内部)

  • 主に床・壁・天井、建具、水回り設備

床下

  • 主に基礎、床組み(土台・大引き・金物など)、断熱材、配管、蟻害(シロアリによる被害)

屋根裏(小屋裏)

  • 主に小屋組み(梁・柱・金物など)、断熱材、雨漏りの可能性

床下および屋根裏の内部調査は、奥まで進入調査する場合はオプション扱いとすることが一般的です。

中古住宅のホームインスペクションを利用する流れ

ホームインスペクションを利用する流れ

中古住宅のホームインスペクションを利用する流れは、多くの場合、以下のとおりです。

中古住宅のホームインスペクションを利用する流れ

  1. ホームインスペクション業者、ホームインスペクターの選定と見積り
  2. インスペクション料金の見積もり依頼
  3. 調査日程の調整
  4. 必要書類の送付
  5. インスペクションの実施
  6. 調査報告書の発行と受け取り

これらの項目について、流れにそって簡単に補足説明しておきます。

ホームインスペクション業者、ホームインスペクターの選定と見積り

最初に、信頼性のあるホームインスペクターを見つけることが重要です。インターネットで探すか、不動産会社から紹介してもらうことが一般的ですが、不動産会社の紹介の場合、第三者性や中立性の点で心配なときがあります。できれば、自分で探すようにしましょう。

インスペクション料金の見積もり依頼

対象物件の情報を伝えるなどして、インスペクション料金の見積もりを確認しましょう。物件の条件などによっては、この時点で図面の提出が必要なこともありますので、業者に確認をとりましょう。

調査日程の調整

選んだホームインスペクション業者および不動産会社や売主と相談して、ホームインスペクションの日程を調整します。できる限り、依頼者自身も立会いできるときで調整することをお勧めします。

必要書類の送付

ホームインスペクションの実施に必要な書類をインスペクション業者より聞いて、準備・発送します。調査日より前に必要なものや、調査日の当日に必要なものなどもありうるので、早い段階でインスペクション業者に必要書類を確認しておきましょう。

インスペクションの実施

インスペクションの日に、ホームインスペクターが対象の中古住宅を丁寧に調査します。その所要時間は、建物の大きさや依頼するオプションの有無などによって様々ですが、100平米程度の住宅であれば、床下や屋根裏の調査も含めて3~4時間くらいが目安です。

調査報告書の発行と受け取り

インスペクションが完了した後、ホームインスペクターは報告書を作成します。この報告書には、調査した項目や発見された問題(欠陥、補修すべき項目、写真)が記載・掲載されます。報告書は通常、数日以内に購入者に提供されます。

中古住宅の購入時にインスペクションするときの適切なタイミング

中古住宅を買うとき、その購入希望者がホームインスペクションを依頼する場合、その実施タイミングをいつとすべきかまとう人が多いですが、ベストなタイミングは、購入申込後、売買契約の締結前です。

中古住宅を購入する時の流れ

中古住宅の購入に際してホームインスペクションを利用するタイミングについて、きちんと把握するには購入の流れを知っておく必要があるので、これを解説します。以下が一般的な流れです。

中古住宅の購入の流れ

  1. 物件の内見(見学)
  2. 購入の申し込み
  3. 手付金の支払いと売買契約
  4. 住宅ローンの本申し込み
  5. 住宅ローンの金銭消費貸借契約
  6. 残金精算と引き渡し

購入申込後、売買契約の締結前がベスト

上の流れのなかで、「購入の申し込み」と「手付金の支払いと売買契約」の間にインスペクションをしておきたいところですので、購入の申し込み前に不動産会社に「インスペクションを入れたい」と申し入れしておき、購入の申し込み時に調査日の調整をしましょう。

ちょっと一言

不動産会社から、「契約前はダメ。買った後にしてください。」と言わることがありますが、しっかり交渉して契約前の実施を目指しましょう。

中古住宅のホームインスペクションの費用・予算

ホームインスペクションのために必要な費用は、対象物件の所在地・建物の面積・オプションサービスの利用有無によって異なります。仮に、100平米の建物面積の中古住宅でホームインスペクターから近い場所であれば、以下が想定される調査料金の範囲です。

依頼範囲費用
基本サービス5~8万円
床下調査2~4万円
屋根裏調査2~4万円
新築建売のホームインスペクション

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中古物件のホームインスペクションでよく見つかる指摘事例

中古物件のホームインスペクションを実際に利用した時、よく見つかる指摘があります。そのうち、代表的な指摘内容を紹介します。

基礎の構造クラック

基礎コンクリートに構造耐力にマイナス影響を与えるようなクラック(=ひび割れ)が見つかることがよくあります。建物の外部から基礎を確認して発見されることもありますが、床下へ潜っていったときに見つかることが多いです。

外壁材やその貫通部分のひび割れ

外壁材そのものが割れていることもありますが、多いケースは、外壁材同士の継ぎ目や外壁材を貫通する設備の周りに施工されたシーリングの破断です。これらは、防水上の懸念がある指摘事項であり、早めに補修をお勧めすることが多いです。

外壁のひび割れ
外壁のひび割れ

室内壁・天井の多数のひび割れ

築年数を経た住宅では、壁や天井に多少のひび割れが入ることは多いですが、その多くはあまり心配する必要はないものです。しかし、発生個所数が多く、壁・床の傾きなどもがあるときには注意を要することもあります。

床下・屋根裏の断熱材の問題

床下の断熱材の一部が落下していたり、屋根裏の断熱材が新築時点で雑に設置されて隙間だらけになっていたりする住宅があります。断熱性の面で懸念がある指摘です。

雨漏りの染み

室内の壁や天井に雨漏りの可能性がある染み跡が見つかり指摘となることもあります。雨漏りと言えば、屋根裏をイメージする人も多いですが屋根裏だけではなく、壁や天井で見つかることも多いです。こういった箇所の染みなら、簡単に気づくだろうと思いがちですが、意外と目線より高い位置をきちんと見ていない人は多く、内見時に気づいていない人は少なくありません。

壁にある雨漏りの染み跡
壁にある雨漏りの染み跡

ホームインスペクション業者の選び方

ホームインスペクション業者を選ぶとき、何に注意して比較検討すべきか解説します。

資格と経験

中古住宅のインスペクションを依頼するなら、既存住宅状況調査技術者であることを確認してください。これは、建築士のみが講習を修了することでなれるもので、国土交通省の告示で定めている資格です。一部のホームインスペクション業者では、この資格を持たずに調査依頼を受けていることがあり、問題視されています。

また、建築士の資格も必要ですが、一級建築士、二級建築士、木造建築士と種類があります。できれば、一級建築士がおすすめです(大事な経験を積んでいる可能性が他より高いため)。

また、資格だけで適切な調査をできるわけではないので、中古住宅のインスペクション経験が十分にあること、またしっかり研修を受け、豊富な実績に基づくマニュアルを活用していることも重要です。

ちょっと一言

理想は、「既存住宅状況調査技術者 × 一級建築士 × 十分な知識・経験」です。やはり、担当のホームインスペクターの質は大事なので、ここはしっかり選びたいところです。

調査範囲

中古住宅のホームインスペクションは、国土交通省の告示による既存住宅状況調査方法基準によって、調査基準が定められています。しかし、これは最低限度調査すべきことにすぎないので、その最低限度のみ調査する業者とそれ以上の調査をする業者の違いがあります。

買主が依頼するなら、大事なことはすべて知りたいはずですから後者を選びたいですね。

調査報告書(レポート)の質

ホームインスペクションを実施後に提出される調査報告書(レポート)は、各社によって大きな違いがあります。簡単に作れるものや相当な時間をかけて作るものがありますが、依頼者としては時間をかけて大事な情報を網羅した詳細な報告書が欲しいでしょう。

詳細報告書だと名乗りながら、それほど詳細ではないがレポートもあるため、必ず、HPなどで報告書のサンプルを確認するようにしてください。

最低でも5人以上で組織化された業者がおすすめ

建築の世界では、一人で仕事をしていると知識と経験が偏りがちで進歩がない人も少なくありません。広く情報を得たり、経験したりできず、いつまでも古い知識や誤った判断を続けていることが見られます。専門家といえども一人ではなく、何人も集まって情報共有しながら仕事をする方が、質が圧倒的にあがりやすいです。目安としては、最低でも5人以上の組織がおすすめです。

業者選びでは、安易に料金比較のみで検討することなく、本当に依頼すべき業者がどこであるか慎重に考えましょう。

依頼する人と立ち会う人

ホームインスペクションをするときに、現場に立ち会う人について紹介します。

買主が依頼する場合

  • 買主:立会いを強く推奨
  • 売主:空家なら不要(ただし、不動産会社などが代わりに立ち会うこと)

売主が依頼する場合

  • 売主:原則立会いだが空家なら不動産会社などに立会い依頼してもよい

以上、中古住宅のホームインスペクションについて、基礎知識を中心に解説しました。多くの人が、初めて利用するインスペクションですが、自分自身で業者探し・選びをして、報告書のサンプルを確認するなどして、利用することをおすすめします。

執筆者

アネスト
アネスト執筆担当
住宅購入や新築、リフォーム時のホームインスペクション(住宅診断)を行うアネストが執筆、監修している。
アネストのホームインスペクション

全国で第三者の一級建築士がホームインスペクション(住宅診断)を行うアネスト。新築・中古住宅の購入時やメンテナンス時などに建物の施工ミスや劣化事象の有無を調査することができる。