ホームインスペクションを取り巻く業界環境・思惑
住宅業界は今、大きな分岐点に差し掛かっている。今までは新築住宅をどんどん建設し、大量の住宅を市場に大量供給してきた。これは、政府の方針のもとに進められてきた政策ですが、住宅不足であった時代は過ぎており、逆に住宅余りの状況になっている。
全国的に空き家問題が表面化しつつある状況で、最近ではマスコミでも空き家問題をどうするかといった問題提起がされるに至っている。
ピーク時に比べて減少したとはいえ、それでも高い水準で毎年のように新築住宅が供給されているが、ハウスメーカーや建築業者、不動産業のなかには、このままではジリ貧であって将来展望を描けないと危機感を持っている会社や業界人もたいへん多い。
これからはストックの時代だと言われて久しいが、いよいよその時代が目前に迫っていると感じているのではないだろうか。
今まで通りに新築住宅を供給するだけでは、会社の存続が危ういと考えて新たな方向性を模索するなかで、いろいろな可能性が考えられている。その1つとして、ホームインスペクション(住宅診断)の活用が挙げられる。
新築ではなく中古住宅(既存住宅)の売買や空き家の有効活用、リノベーションなどの事業へ参入を考えている会社にとって、ホームインスペクション(住宅診断)を上手く活用できないだろうかというわけだ。
たとえば、中古住宅の売買の仲介時において、ホームインスペクション(住宅診断)を無償提供したり、リノベーション時にホームインスペクション(住宅診断)を行うことで住宅を長持ちさせるようなプランの提案をしたりと様々な可能性がありうる。
しかし、ここで1つの問題が生じる。不動産売買やリノベーションをメーン事業とするわけではなく、ホームインスペクション(住宅診断)を主とする、もしくは専業としているホームインスペクション会社の多くはホームインスペクション(住宅診断)の第三者性を重要だと考えていることが多い。
ホームインスペクション(住宅診断)の結果や結果を基にしたアドバイス次第で、住宅を購入したりリノベーションを判断したりするわけであるため、その内容が適切なものである必要があるのは言うまでもない。
しかし、不動産会社が実施するホームインスペクション(不動産会社の提携先が実施するケースを含む)の結果をもって購入判断することにはリスクがある。また、リノベーション会社が実施した(提携先が実施するケースを含む)結果をもってリノベーション内容を判断することにもリスクがある。なぜならば、「買って欲しい」「もっと工事金額をつりあげたい」などといった気持ちが働く可能性があるからである。
つまり、利害関係者のホームインスペクション(住宅診断)で本当によいのかという問題である。ホームインスペクション(住宅診断)に求められることが、利害関係のない立場による診断とアドバイス、すなわち第三者性である。この第三者性がおろそかになってしまうと消費者にとってはむしろデメリットとなりかねない。
注目を浴びつつあるホームインスペクション(住宅診断)を事業のために有効活用しようとする不動産業者や建築業者の思惑というものが、健全なホームインスペクション(住宅診断)の普及を妨げる可能性がある。もちろん、利害関係に関係なく、適切なホームインスペクション(住宅診断)を取り入れようと考える不動産業者や建築業者も多い。しかし、ちょっとした表現次第で自社や自分の利益がかわるとなれば、その気持ちが全く作用しないと言い切れるだろうか。
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執筆者
全国で第三者の一級建築士がホームインスペクション(住宅診断)を行うアネスト。新築・中古住宅の購入時やメンテナンス時などに建物の施工ミスや劣化事象の有無を調査することができる。
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